雪こんこ

夜勤の間に雪がしんしんと降り続き、帰る頃には膝まであるAIGLEの長靴が全部埋まるくらい積もっていた。この長靴がこんなに実用的だということを、買って十年近く経って初めて実感した。

私が帰れるようにと職場の方が車の周りと窓に積もった雪をかいてくださったので帰路につく。赤信号で止まるとルーフに積もった大量の雪がフロントガラスにどさっと落ちてくるプチ雪崩がおきる。最初はワイパーが機能していたがそのうち動かなくなり、その間にも降り続ける雪で視界がどんどん狭くなっていく。アタックチャンスの最後の、穴あき映像を見て答えるクイズのようだとぼんやり思う。視界が狭くなっていく中運転するのはなかなか恐怖だ。コンビニに寄ろうにもどこも深い雪だし、残された視界を頼りになんとかのろのろ自宅マンションにたどり着く。

駐車場は車が出入りした形跡がなく、膝丈まである雪を果敢に車で開拓すると、タイヤがキーッと空まわりしだす。キーキーやってるうちに、ついに視界が全く閉ざされた。とりあえず降りてタイヤ周りとフロントガラスだけスコップで雪を除けるが、少し進むとまたすぐつまる。今度は私の方がキーッとなりそうなものだが、そうだ前にばかり進むのではなくて後ろに下がれば良いのかと気づく。一度バックしてから前に進むと、少しずつだが動けた。定位置に駐車し、ようやく家で暖まる。いつもは五分の通勤路が、大冒険だ。仮眠してから鳥取まで繰り出すつもりだったが、とてもじゃないけど断念。久しぶりにゆっくりと風呂に入って時間を気にせず寝ることにする。

キーッという音で目がさめる。姿は見えないが同じマンションの住人がどうやら駐車場ではまっているようだ。前だけじゃなく、後ろだよ。ぬくぬく布団から優越感に浸りながら心の中でアドバイスし、はたと気づく。私はどうも、何の制限もなくどこへでも動けてしまうと欲張りに詰め込んでしまう性分だ。こうして足止めを食らうと立ち止まり、振り返る。身体の休息、こころの休息。前進するばかりではなく、たまには後ろに下がること立ち止まることも必要だな、などと人生の格言めいたものを呟きながら、雪のもったり積もった屋根屋根を眺める。こんな休日も悪くない。明日は、キムチでも作ろうか。

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