抜きどころ

久しぶりに母たちのサロンを開催した。続けていくのは大変だという印象があったが、抜くところを抜いて、自分自身も肩の力ゆるゆるで場を持ったところ、びっくりするほど楽しかった。そして、最近ずっと考えているコミュニティーナースの産科版のヒントが少しだけ見えた気がした。キーワードは、頑張らないで続けていくこと。自分自身が楽しいこと。これだ。

ご縁があって松江で、昨年度鳥取で開催していたマドレボニータワーキングマザーサロン(的なもの)をすることになり、久しぶりなのでまずはホームの鳥取で練習がてらサロンを開くことにした。今回の鳥取サロンは、いつも使っていた会場なので電話一本で予約完了。チラシは敏腕メンバーが早々に作成してくれた。集客も、いつもは定員いっぱい集めないとと躍起になっていたが、今回はチラシを職場の産科クリニックに置いて、入院中のお母さんたちに声かけしたり、お産をしたお母さん達へ送る赤ちゃん一歳おめでとうハガキの余白で宣伝したりと、最低限のパワーでできた。一年のブランクがあったので、練習も相当せねば…と思っていたが、すべて暗記は無理と諦め、カンペ作成に尽力した。サロンの肝は最後の全体シェアリングの部分だとわかっていたので、その部分はメンバーで集まってプチサロンを開いて詰めておいたので安心できたのかもしれない。つまり、抜きどころを抜きまくったので、準備は全然大変じゃなかった。

いざ、サロン当日。久しぶりのサロンは緊張したが、安心できるメンバーのもと、一年前の時が戻ったかのようなあたたかい場。たたた、たのしい!進行役をメインでやっていた一年前は、次期進行役を鳥取から輩出させねば…と意気込んでいたため、サロン自体も「うまくやらなくちゃ」とファシリテーターの私自身が正解を求めて力が入りすぎていたように思う。場数を踏んだからか、時を経たからか、次のサロンの予定がない単発だからかわからないが、うまくやるよりも、貴重なこの場自体を楽しむことができた気がする。参加者の母たちの口から出てくることば全てが新鮮で愛おしくて、この時間が続けばいいなと思えた。クリニックにいる時は、やはり母になりたての女性に育児を伝える助産師、という立場だ。だから、母という役割も含めて一人の人として女性と向き合えるサロンの場は、トータルでその方を見ることができる良い機会になった。サロンの会場を、お金がかからないクリニック内のホールにしようかとも考えたが、やはり立場が混在しない違う場所での開催でよかった。

特に印象に残ったのは、一年以上前にうちのクリニックでお産をされたお母さんのことばだ。初めてのお産だったが、入院中はニコニコ笑顔で育児も楽しそうにされていた。産前クラスでお産を目前をした母たちへお産の体験を話してもらったりした。一ヶ月健診の時も、順調そうだった。だから、これからもこの感じで自分のペースでゆったりと育児を続けていくだろうと安心していた。その方が、一ヶ月健診の後くらいから、精神的に不安定になって、パートナーとの関係性もちぐはぐになり、かなりしんどい時期があった、とサロンで話されていた。今は越えたけど、あの時は本当にしんどかった、と。衝撃だった。そして、やはりクリニックにいるだけでは見えないものがあるのだと思った。私の勤めているクリニックは前にいた大病院と違って、産後もかなりお母さんたちと近く、継続的におっぱいフォローや電話訪問などもできていると思う。それでも、やはり一ヶ月健診を終え、足を運ぶきっかけがなくなると、お母さんたちは孤独になってしまうのだと思った。だから、たとえばこういうサロンのような場だとしても、子育て支援センターとはまた違う、お産や産直後の時間を共にした助産師と繋がっていられる場所が必要なのだと思った。

コミュニティーナースの産科版的なことができたらいい。どういう形が良いのかと最近ずっと考えているが、これもひとつの形だと思った。自分からぐんぐん外に行けない人でも、クリニックの紹介ならばなんとか足を運べる。そういうツールとしてサロンを使うのも良いかもしれない。

私がしたいことは、私の周りにいる目の届く範囲のお母さんたちがまずはハッピーになること。自分のキャパを越えて、鳥取、米子へと進出せずとも、クリニックと繋がった倉吉のこの地で、こういう場を定期的に作っていくことに意味があるのではないか。抜くところは抜いても、抑えるところをしっかり抑えれば十分意味はある。

サロンのために学んだマドレの研修で、「ここで学んだことを、自分の土地で活かしてください」と言われた。このプロジェクトの目的は、マドレを広めることではなくて、産後ケアが当たり前に受けられる社会にしていくこと。利益目的ではなく、社会を良くすること。なんて太っ腹なんだと感動したのを覚えている。それって、こういうことだったのかなと、一年以上の時を経て感じるものがあった。良い機会だった。

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