先生様

凍っていた階段でつるんと滑って尻餅をついて、膝を痛めた。去年もやったところ。足が痛いと、瞬間的に一歩が出ない。家でやかんのお湯が沸いてピーッと鳴った瞬間。ナースコールが鳴って受話器を取ろうとした瞬間。今まで意識していなかったそういうコンマ何秒で「ためらい」が生じる。その一瞬を気力で「うおお」と越えることは出来るのだけど、その微妙な葛藤がいちいちストレスなのと仕事にも差し障るので病院に行ってきた。

大きな病院なので、三時間コース。待合室のテレビの音量が小さかったのでこれ幸い、本を読もうと思ったが、夜勤明けで眠くて何度も本を落とした。諦めればいいのにまた本を開いて、二行くらい読んでは落とす、を繰り返す。往生際が悪い。

ようやく名前を呼ばれて診察室へ入る。レントゲンで骨には異常なし。半月板も大丈夫そう。鎮痛剤だけ出しておきます、とのこと。痛みがおさまらなければMRIの精密検査を。以上。ものの三分の出来事だった。よくわからないことを質問すると、先生様は面倒くさそうに答え、さっと去られた。呆然としている所へ看護師さんが来てくれて質問に対して親切にひとつひとつ説明をしてくれてようやく理解できた。前回来た時も、先生は事実だけぱっと言い渡して、釈然としないままリハビリ室に行ったらPTさんが丁寧に説明してくれて、ようやく理解できた。お金を払って外に出ると、暖かい良い天気。朝だったはずなのに、気付けば十三時になっていた。ため息。

鳥取に来てから、町のお医者さんにかかってあまりいい思いをしたことがない。理解できないことを質問したら「いいから黙って言うこと聞いてください!」と怒鳴られたこともあった。保険証を見て「看護師さんならわかりそうなものなのにねえ」と嫌みを言われた。わからないから聞いているのに。私は、クレーマーとして映っているのだろうか。でも、自分の身体が不調なことはとても不安だし、お金と時間をかけて病院へ来ているのだからせめて納得するまで説明をして欲しい。その病院は盛況で、大勢のお年寄りが先生様の診察を待っていた。沢山待っている割に待ち時間が短かったのは、ベルトコンベアーのように一人に充てられる診察時間が限られているからで、私は自分に充てられた尺を超過したから怒られたのか。選ぶ余地がないからここに通っている人もいるんじゃないの、と思ってしまう。あそこにはもう二度と行かない。

そして思うのは、翻って自分のこと。妊婦健診やお産の時に「こんなこと聞いて、と思われるかもしれないですけど…」と言われる方がとても多い。余裕がある時は全然良いのだけど、忙しい時は何度も同じことを聞かれると、もうっと思ってしまうことがある。私が看護師さんやPTさんに救われたのは、自分が納得するまで丁寧に話を聞いてくれたから。私がハテナの顔をしていたら、看護師さんの方から近寄ってきてくれて、補足説明をしてくれた。理解できれば、今の状況や痛い事実や、不安な気持ちも受け入れられる。「面倒くさい患者さん」と思わずに、そう言ってしまう患者さんの気持ちを慮る。ようにしたいと思った出来事。膝が痛い。

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