地震

勤務中に大きな揺れ。

最初は震度四で、患者さんの無事をひとまわり確認したその後にグラッとはんぱない揺れがきた。十月二十一日、十四時〇七分。震度六。ジェットコースターが落ちる時の一瞬無重力みたいに胃が浮くような感じがした。廊下にある花瓶が落ちてガシャンと割れて飛び散る破片。あの光景、音、スローモーションに記憶に残っている。これは、以前車に乗っていて事故った時の感じに似ている。

患者さんの無事を確認し外へ避難誘導。
なにをしたらいいのか、「落ち着いて、落ち着いて、」と何度も自分に言い聞かせた。でもすぐ頭がからっぽになる。何かがあると、ワッとそこにスタッフも集まるが、もっと全体を見て行動しなければいけない、と思って、全体を見ようと思った。
そんな混乱の中、元気に赤ちゃんが生まれた。
本当に希望だと思った。

 常に感じていたのは、なんて自分は無力なんだろう、ということ。災害拠点病院で働いていたことがあるのに、こういう時に率先して動けない。本当に、無力。考えて、思うことをとりあえずやった。 何度もくる余震。
「○○取ってきて!」と言われて病院の中や2階、3階に戻る度、「今建物が崩れたら終わる揺れるな揺れるな揺れるな」と何度も思った。怖かった。
駐車場の上にはずっとおそらく取材のヘリコプターがブルンブルン言いながら飛んでいたけど、そんな無駄に回旋するんだったら、この切迫早産の妊婦さんをさっさと搬送してくれればいいのに、と思っていらいらした。 家族がいなくて寂しいけれど、ひとりの家でこんな地震にあわなくて良かった。目の前のすべきことに没頭している方がいいし、誰か、しかもとても信頼している職場の方々がそばにいるから、怖いけどなんとか気持ちを保っていられた。 とりあえず、一段落していったん帰宅。

帰りに、白壁土蔵の辺りを通ったら、ガラスの破片だらけ。ショーウィンドウが割れたのだろうか。スーパーにも報道の人が来ている。マルイのスーパーは、店の軒先で水や食料を仮設のレジを作って売っていた。水2Lを1箱買う。とりあえず、水は必要そう。

水道が止まったやら停電やらと耳にしていたが、私のマンションは無事。冷蔵庫があいて棚のものが散乱しているけれど、基本的に家の中が雑然と散らかっているので、そこまで変わった光景に見えず、ホッとする。水も電気も復旧した後のようだ。ありがたい。 今晩は病院に戻って、はしっこの方で寝かせてもらう。少しは役に立てるかもしれないし。病院からもらってきたおにぎりを食べる。人の握ってくれたおにぎりは、本当においしい。 多くの方が、心配のメールをくれて心強い。ありがとう。

こんなにざわざわした自分の気持ちをよそに、いつも通りの日常が繰り広げられているSNSに違和感を感じる。でも、たまたま私が大きな地震のあった鳥取県倉吉市、という場所に住んでいた。それだけのこと。震災の方々はこんな気持ちなのだろうか、と少しだけ思った。 気を張っていたのが一気に緩んで足がなまりのように重たい。本当に疲れた。このまま床に寝転んで寝てしまいたいが、とりあえず病院に向かおう。